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忘却を載せた回収軌道

小説ID: cmucswpl5002501mz6ty9bh0x

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政府対策本部へ映像を送ったのは、夜明け前だった。逆時鏡が示す落下地点は、先の修正によって都心の中心から外れていた。だが赤い予測円は依然として住宅地を覆い、その縁には病院も避難所も含まれている。 「移動量は不十分です」 通信画面の向こうで、担当官が硬い声を告げた。玲は答えず、軌道の誤差を拡大した。衛星をさらに東へ押せば、湾岸の物流区画へ落とせる。しかし必要な情報エネルギーは、朝の会話とは比べものにならない。 抽出器が、玲の記憶を候補として並べた。その中に、古い夜があった。 まだ梓が幼い頃の話を、結婚してから初めて聞いた夜だった。雨の音が窓を打ち、梓は湯気の消えた茶を両手で包みながら、自分は空の端まで届く灯台を建てたかったのだと言った。迷う船だけでなく、帰る場所を忘れた人にも光を見せるために。玲は笑わず、設計図にするならどんな塔がいいだろうと真剣に尋ねた。梓は、その不器用さが好きだと笑った。 玲は端子を握った。梓の笑い声が、雨音の向こうへ遠ざかる。 実行後、鏡面の赤い線は湾岸へ滑った。予測円は都心を離れ、無人化された荷役区画の上で止まる。対策本部から、避難範囲を縮小する指示が飛んだ。助かる人数の計算値が、画面の隅で増えていく。 その夕方、玲は療養施設を訪れた。梓は窓際の椅子にいて、遠い湾岸の空を眺めていた。 「ニュースで見たわ。落ちる場所が変わったんですって」 「そうらしい」 「海の近くなら、灯台みたいに目印があればいいのにね」 玲は足を止めた。胸の奥に、何かがあったはずだった。雨の夜、湯気、手の温度。そこへ続くはずの感情だけが、切り取られた写真のように消えている。 「梓は、昔……灯台の話をしたことがあるか」 梓は首をかしげた。 「灯台? どうして?」 その問いに、玲は答えられなかった。救えた命の数は確かだった。けれど記憶を送るたび、梓を大切に思う理由まで、生活の中から静かに剥がれていく。玲は彼女の前に座り、ただ窓の外を見た。湾岸の彼方には、夕暮れの光だけが、名前のない誰かを待つように揺れていた。

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