食堂の戸口から作り方の紙が半分ほど減った頃、配給局の職員が戻ってきた。朝、窓口で澪に待つよう告げた男だった。 「提出された製法を、許可なく配っては困ります」 男は戸口の紙に手を伸ばした。澪は残りを抱え、「もう持ち帰った人もいます」と答えた。職員は、青のりの採取場所と調理手順を局で確認し、配り方も決めると言う。いつ終わるのかと聞けば、また答えはなかった。 「局の調理場なら、決まった量を作れますから」 その言葉に、澪は十九年前の告知を思い出した。祖母のスープを局の調理場で試すと記されていた紙だ。局がその先をどう扱ったか、澪は知らない。ただ、祖母が共同調理場を辞めたことだけは、母の帳面に残っている。 職員が引き揚げると、澪は三冊の献立帳を調理台に並べた。祖母の手順、母が写した手順、昨日自分で書いた手順。頁を重ね、光に透かす。分量は自分の試作で少し変わったが、火を止めてから皮を入れる順序は、三冊とも同じだった。 母の帳面には、告知の切り抜きの次の頁に、昨日読んだ六月十五日の記録がある。祖母は局の鍋だけで作る汁にしたくないと言い、順序まで教えたいと母に話していた。澪はその頁を自分の帳面の横に置いた。先ほど職員に言われた「局の調理場なら」という言葉が、母の字と並んだ。 仕込みから戻った母に、澪は帳面を見せた。「おばあちゃんは、局を通さずに教えるつもりだったの」 母は首を振った。「そこまでは聞いていない。でも、誰の台所でも作れるように、と言っていた。私が順序を書き写したのも、そのためよ」 澪は戸口へ出た。紙を受け取った修理工の娘の母親が、青のりを洗う水について尋ねてきた。澪は食堂の仕入れ先が採る防波堤の内側を示し、砂を落とすまで洗うよう伝えた。娘の母親は作り方の紙に書き足し、隣で待つ人にも見せる。 荷揚げ場には梓がいた。目が合ったが、澪はまだ手を振れなかった。それでも新しい紙を戸口に足した。職員が戻る前に配りきりたいからではない。先に持ち帰った人たちが、それぞれの台所で迷わず作れるようにするためだった。
商標より台所が強い
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