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商標より台所が強い

小説ID: cmue8cjeq002k01mzn8t2m0ce

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戸口に置いた作り方の紙を持ち帰る人が増えるほど、澪は気になった。食堂の鍋では作れた。けれど、家にある小さな鍋と乏しい材料でも、同じようにできるだろうか。次の紙を刷る前に確かめたかった。 澪は修理工の親子に頼み、夕方、台所を借りた。娘の母親は、干した大根の皮をひとつまみだけ見せた。「今日、残っているのはこれだけ」。澪が持参したのは水と、自分で採って食堂の仕入れ先に確かめてもらった青のりだけだった。 そこへ梓が、小さな包みを持って来た。荷揚げ場で働く人たちの弁当から集めた大根の皮だという。頼んだ覚えはなかった。澪は礼を言いかけ、包みを見たまま口を閉じた。梓も弁解はせず、「洗って干してある」とだけ告げた。 「こっちの鍋には、家にあった分だけ入れる。梓のは、もう一つの鍋に使わせて」 「分かった」 娘が青のりを洗い、澪はその手元を見た。砂を落としたあとの青のりを新しい水に浸すと、娘の母親が紙を指さす。「洗った水ごと火にかけるのかと思った」。澪ははっとした。戸口に置いた紙には、水に浸す前に洗うとは書いたが、水を替えるとは記していない。 二つの鍋を並べ、沸く前に火を止めた。皮の少ないほうは甘みが弱い。それでも、娘は椀を空にして「青のりの味がする」と言った。梓が集めた皮を入れたほうも、食堂で作ったものと変わらない。娘の母親は、塩を入れずにもう一口飲み、「今日は塩も惜しいけど、これなら出せる」と頷いた。 澪は食堂へ戻り、紙を書き直した。青のりは食用に採っている場所で少しだけ採り、砂が落ちるまで洗う。それからきれいな水に浸す。皮は少量でもよく、塩はあれば最後に加える。書き終えて振り向くと、梓が戸口のそばで乾いた紙を揃えていた。 「明日、配る分?」 「うん」 梓はそれ以上聞かなかった。澪も、一緒に配ってほしいとはまだ言えない。それでも揃えられた紙は、風で飛ばないよう重石の下に置いた。今夜、親子の鍋で確かめたことまで載せて、明日はもっと遠くの台所へ届けるつもりだった。

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