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診療所を浮かせて自宅を手放す

小説ID: cmvto83pj002501s6fzqptlvo

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桟橋の端で、水上タクシーの運転手が缶を片手に座っていた。船には営業終了の札。本人の顔にも、だいたい同じことが書いてある。 「白い礼服の男を乗せなかったか」  浦辺が尋ねると、運転手は勢いよく胸を張った。 「花婿なら三人乗せた。一人は広告だった」 「まず、人間だけ数えてくれ」 「じゃあ二人だ。いや、もう一人は窓に映った俺かもしれん」 「ずいぶん順調に減るな」  花嫁が端末に夫の写真を出した。運転手は目を細め、缶を遠ざけてから写真を近づけた。調整する場所が逆ではないかと浦辺は思った。 「この人だ。何か大事そうに胸を押さえてた。俺は船酔いかと思って、袋を勧めた」 「行き先は?」 「白い船」  捜査が出発点へ帰ってきた。帰りの交通費がかからないのだけは助かる。  花嫁はため息を飲み込み、画面を切り替えた。 「式場を出たのが十時十二分。夫から連絡が来たのが十時四十六分です。この間の運行を確認できますか」 「できるとも。俺の記憶より機械のほうがしらふだ」  運転手は桟橋の精算端末に乗務札をかざした。表示された履歴を、花嫁が時刻順に追う。 「十時二十八分、東桟橋から宴会船の乗降口まで。一名」 「ほら、三人いた」 「一名と書いてある」 「広告と鏡の俺は無料だからな」  数字は訂正できても、自信は訂正できないらしい。  花嫁は夫から届いた乗船代の決済通知を開き、履歴の金額と照らし合わせた。 「これです。式の忘れ物を取りに戻ったのかもしれません」 「券を持ったまま宴会船へ、か」  浦辺は沖の灯を見た。捜すべき白が、ようやく一隻に絞られた。 「送ってやろうか」  運転手が腰を浮かせるより早く、花嫁が定期便の乗り場を指した。 「結構です。勤務は終わっていますし、そちらで帰ります」  ちょうど着いた定期便では、制服姿の船員が乗客を誘導していた。二人はその列に並ぶ。  花嫁はもう宴会船の受付へ連絡を入れていた。  浦辺は乗船券を買いながら、自分の役割を考えた。放っておいても捜査を進めそうな依頼人だ。せめて次の桟橋では、先に降りよう。探偵にも、先頭を歩くくらいの見せ場は欲しかった。

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