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診療所を浮かせて自宅を手放す

小説ID: cmvto83pj002501s6fzqptlvo

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浦辺は管理局の夜間窓口へ電話をかけ、端末を作業机に置いた。共同浮体の図面を映すと、担当者は画面の向こうで眼鏡を押し上げた。 「資材がそろっても、安全検査と係留許可が必要です。今夜の代用にはできません」  夫が図面の端を指した。 「この補助浮体なら、診療所につなげられませんか」 「避難の猶予を作る設備です。継続使用の許可にはなりません。患者さんの搬送準備は続けてください」  花嫁は看護師へ短い連絡を送った。夫は机の浮力券を見つめたが、今度は手を伸ばさなかった。  倉庫の時計が進む。図面の上では立派な街ができているのに、現実では三人の立つ床さえ冷たかった。 「俺の自宅の券なら、正式に移せるか」  浦辺が尋ねると、花嫁が顔を上げた。 「机の脚に挟んでいた、あれですか」 「家具としての経歴は、この際忘れてくれ」  担当者は契約番号を聞き、登録を照会した。 「有効です。診療所の維持に必要な容量も満たしています。ただし、自宅の維持権は失われます。退去確認と所有者の認証を、夜明けまでに済ませる必要があります」 「あなたが家を失うんですよ」  花嫁の声に、浦辺は倉庫の隅の木箱を見た。寝床として査定するには、角が多すぎる。 「診療所に空き部屋はあるか」 「一室あります。でも、倉庫代わりで」 「荷物と同居なら慣れてる。俺もだいたい荷物だ。たまに依頼を受ける」  花嫁は笑いかけ、すぐ真顔に戻った。 「片づけます。入居条件も、きちんと相談しましょう」 「なら、それを条件に券を譲る。寝る場所まで海に寄付する趣味はない」  夫が口を開いた。 「僕が持ち出したせいで、あなたに……」 「その券を返すのは君の責任だ。俺の券をどうするかは、俺が決める」  浦辺は二枚の図面を重ね、返還する券とは離して置いた。 「同じ紙でも、勝手に取るのと、相談して渡すのは違う。今から、その違いを手続きにする」  担当者が必要な書類を送ってきた。花嫁は診療所の受入確認を、夫は管理人との返還の約束を確かめる。  浦辺は自宅の鍵を取り出した。 「まず事務所で券を回収だ。それから引っ越す。今夜の仕事、探偵より運送屋に向いてきたな」

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