宴会船に着くと、浦辺は宣言どおり先に降りた。花嫁が受付で事情を説明し終えるころ、ようやく船酔いを顔から追い出した。先頭にも、それなりの苦労がある。 会場では、配膳ロボットが空の皿を運んでいた。さっきまで祝福が飛び交った卓上には、水滴と、帰り損ねた花びらだけが残っている。 「ご主人なら、少し前にお帰りになりました」 係員は新郎席を指した。 「こちらで何か書いていらして。紙を置いていかれたので、お連れ様宛てかと思ったのですが」 肝心の紙はなかった。係員が清掃履歴を確認すると、卓上の残置物としてロボットの収納庫に回収されていた。 浦辺は銀色の機体に向き直った。 「紙を返してくれ。食べ終わったわけじゃない」 「お忘れ物はデザートではありません」 「そこは意見が一致している。だから出してくれ」 「お忘れ物はデザートではありません」 花嫁が唇を結んだ。笑いを止めているのか、怒りを止めているのか、探偵にも判別できない。 「俺の頼み方に、甘さが足りないのか」 「お忘れ物はデザートではありません」 「甘くしても駄目らしいな」 係員が申し訳なさそうに操作盤を開いた。 「取り違え防止のため、回収物は担当者しか取り出せないんです」 花嫁が席と時刻を伝え、係員は履歴を照合した。認証札をかざすと収納庫が開き、仕切られた箱から一枚の伝言用紙が出てきた。融通は利かないが、紙をソースと一緒に捨てない点は頼もしい。 用紙には診療所の契約番号と、夫の筆跡があった。 『更新通知はどこへ送られた? 今月の郵便にも端末にも見当たらない。管理局で確認する』 花嫁は文字を指で追った。 「逃げる場所を書いていたんじゃないんですね」 「少なくとも、海の向こうへ高飛びする男が契約番号を控えるとは思いにくい」 浦辺は紙を撮影し、原本を彼女に渡した。 「ただ、調べ物に他人の浮力券は要らない。そこは別の話だ」 「ええ。見つけたら、ちゃんと返させます」 その声には、安堵だけではない硬さがあった。 係員に礼を言い、二人は管理局の夜間窓口へ向かった。背後でロボットが同じ案内を繰り返した。浦辺は振り返らなかった。今夜はもう、甘いものより答えが欲しかった。
診療所を浮かせて自宅を手放す
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