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診療所を浮かせて自宅を手放す

小説ID: cmvto83pj002501s6fzqptlvo

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管理局の窓には、夜明け前の海が青く映っていた。窓口のコーヒーは四杯に増えている。援軍は到着したが、指揮官のまぶたは重そうだった。  富豪と管理人は、すでに待っていた。夫は二人の前へ進み、浮力券を差し出した。 「僕が持ち出しました。診療所を助けたいと思って、あなた方の暮らしを危険にさらしました。申し訳ありません」  花嫁は隣に立っていたが、代わりに説明しなかった。  富豪は券を受け取り、職員に照合を頼んだ。 「返還は確認してもらいます。ただ、避難準備にかかった費用や設備への影響も調べたい。今後の対応について、連絡を取れるようにしてください」 「はい。管理局の確認にも応じます。費用の件も、僕から相談します」  夫は自分の連絡先を書いた。謝罪で話を閉じず、次にすることまで確かめている。その横で、管理人が家族へ短い連絡を入れた。  職員が返還記録を保存し、浦辺の申請へ画面を切り替えた。 「退去確認と本人認証はあります。ただ、診療用途への変更申請に、施設資料が添付されていません」  浦辺は時計を見た。秒針には、空気を読む機能がない。 「紙の不足で沈むのは、紙の船だけにしてほしいな」 「資料なら、用意してあります」  花嫁が端末を差し出した。診療所の平面図、施設登録、必要容量の算定資料。避難準備の合間にまとめていたものだった。  職員の指示で不足分を送信し、受理番号が表示される。近道ではなく、抜けていた一段を埋めたのだ。 「内容を確認して、こちらに署名を」  浦辺の手が、ペンの手前で一度止まった。  自宅の窓枠に置いた掌の感触が戻った。戻れば寝床のある夜は、もう終わる。  花嫁も夫も、何も言わなかった。  浦辺は自分でペンを取り、名前を書いた。 「俺の字でも浮くんだな。学校の先生に見せたかった」  職員は署名を確認し、登録を確定した。富豪の住戸は維持継続。浦辺の自宅は退去済みとして維持対象から外れ、その券が診療所へ正式に移った。  花嫁の端末に、看護師から写真が届いた。窓の向こうに、待合室の灯りが並んでいる。  浦辺は画面をのぞき、ようやく肩を下ろした。荷物の行き先が、ちゃんと明るかった。

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