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白鹿に預けた出会いと二度目の自己紹介

小説ID: cmvv3nu1t000201s6a1zaojt0

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最初の境界には、薄い氷の膜が張っていた。白鹿が振り返ると、その向こうに囲炉裏の火が見えた。 冬の茶を分け合った夕べだった。伴侶は乾かした木の実を茶に落とし、渋いと言った朔の椀へ、自分の分を少し注いだ。二つの椀から上がる湯気が重なり、窓を鳴らす風さえ遠かった。 朔は帳面にその出来事を書いた。指が止まるたび、向かいに座る人の顔を確かめた。 「これを渡す」 氷へ手を触れると、湯気も火も消えた。胸の奥から何かが抜けたのに、何を失ったのか、もう探せなかった。 境界を越えた先で、朝の鐘が鳴った。 集落の屋根は揃い、道には荷橇の跡が続いていた。折れた梁も、雪を掘る人々もいない。朔は自分の袖を握った。昨夜ついた煤は残り、帳面にも文字が残っている。だが森の入口で折れていた枝は、元の幹につながっていた。 家の戸を開けても、返事はなかった。 隣家の女が、戸口へ顔を出した。 「今朝早く、下流へ出たよ。冬の粉と油を届けるって。夕方には戻るそうだ」 朔は礼を言い、山へ走った。 尾根の手前で、雪面に横たわる亀裂を見つけた。昨日は崩れた雪に埋もれて見えなかった場所だ。割れ目は林の端まで伸び、耳を澄ますと、底で低く軋む音がした。朔は近寄らず、木の位置と亀裂の長さを帳面に写した。 広場へ戻って知らせると、薪を割っていた男が山を見上げた。 「その辺りは毎年滑る。道へ出るほどじゃない」 「今年は違う。家まで来る」 言い切った声に、男の斧が止まった。しかし、ほかの村人は荷を運び続けた。証拠にできるのは亀裂だけで、雪に埋もれた昨日を知る者は朔しかいなかった。 家へ戻り、下流へ出た時刻と山の音を書き足した。炭筆の先が、境界の前に記した一行へ重なった。 冬の茶を二人で分けた。木の実は渋く、あの人が笑った。 自分の字なのに、知らない家の話を読んでいるようだった。棚の茶袋を開けても、鼻を寄せても、あの夕べは戻らない。 朔は空いた椀を置き、帳面を閉じた。残せるのは出来事だけだ。それでも、今見つけた亀裂まで失うわけにはいかなかった。

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