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白鹿に預けた出会いと二度目の自己紹介

小説ID: cmvv3nu1t000201s6a1zaojt0

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軒下で雨を避けたあと、その人は市の出口を尋ねた。道に迷ったのだと言い、朔が指した方とは逆を見た。 「途中まで、一緒に行こう」 そう声をかけた自分を、朔は最後に思い出した。濡れた石畳を並んで歩いた。その先に、二人の家があった。 朔は帳面へ書き足し、氷に触れた。 雨音が途切れた。握っていた手も消えた。 五日前の朝だった。 帳面の『伴侶』という言葉は読める。けれど顔を思い描こうとしても、誰も浮かばない。共に暮らしたという記述を、自分のこととして感じられなかった。 朔は頁を戻した。 誰も取り残さない。八十二人を峠へ。 筆跡は自分のものだった。今の自分には、その約束を果たすための道具と手順がある。 森を出て、朔は岩壁の雪を確かめた。青い亀裂はまだなく、杭を据える岩の窪みも露出していた。ここなら板を支えられる。 上流へ戻ると長を保管庫へ呼び、掟の端にある代償を示した。大工には木の長さを、運び手には荷を分ける場所を伝えた。下流へは使いを走らせ、まだ架かっている橋で返事を待った。 「薬は本人のそばへ置く。それでいい?」 小屋から出てきた人が尋ねた。朔はその顔を見て、帳面へ目を落とした。届け手の印が、相手の荷袋にも縫いつけられていた。 胸は動かなかった。 それでも朔は頷いた。 「六人を頼みたい」 相手は紙を受け取り、すぐに戸口へ向かった。 昼には狭道に板が渡り、綱が張られた。先行した者が山小屋の炉を焚き、家族の組が登り始めた。橋が使えるうちに担ぎ手を回し、二つの集落から出た列は、時刻をずらして尾根へ合流した。 朔は名簿に印をつけた。家ごとではなく、一人ずつ。水車小屋の老人の薬包も、担架の脇で確かめた。 白旗が二度上がった。下流の家々の確認が済んだ合図だった。上流からも同じ旗が返る。 最後の一団が板の手前へ着いたころ、白鹿の角は細い灯のようになっていた。朔は荷を置かせ、前後の人数を数えた。 最後尾の人が渡り切る。あの届け手だった。 名簿の最後に炭筆を押し当てると、八十二の印が揃った。 朔は綱から手を離し、白鹿の光が消えきる前に、全員とともに安全な峠の石標を越えた。

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