chapalette Logo

父の謝罪は注文よりぎこちない

小説ID: cmw28v9cl000201qvbmpze51c

父の謝罪は注文よりぎこちない
10 / 10

夜明けの窓は、ようやく雨粒の向こうに景色を返してくれた。職員が道路の安全を確認し、業者と搬出経路を見て回る。母の携帯には、倉庫を使えるという返事が届いていた。 「屋根付きよ。今度はあなたが見張らなくても大丈夫」 父はうなずいた。木材より先に、人間のほうが休めそうだった。 看板を外した屋台が、業者の手でゆっくり運ばれていく。父は手を出しかけたが、作業員に任せ、私たちと離れて見守った。 「車輪、もう少し持つと思ってた」 「見積もりで聞こう。気合は交換部品じゃないから」 私が言うと、父は素直に手を下ろした。 屋台は荷台に固定され、母が手配した倉庫へ出発した。予定どおり空いた公民館の片隅には、濡れた地面と、椅子の脚の跡だけが残った。 父はしばらくそこを見ていた。それから、私に向き直った。 「教師になるのを否定して、悪かった。お前の話を聞くべきだった」 手には何も持っていなかった。注文札も、言葉の続きを隠すお玉もない。 「次は、分からないことを先に聞いて」 私が返すと、父は少し考えてからうなずいた。 「そうする」 すぐに全部を許せたわけではない。それでも、今の返事を昔の言葉と同じ箱へ放り込むのはやめた。 私は携帯の予定表を開いた。 「修繕の相談、来週の日曜は?」 四人の都合を確かめ、午前十時と入れる。営業は修繕と手続きを終えてから、月に一度。最初の日を決める相談も、その予定に添えた。 「会議のおやつは経費?」 妹が聞き、母が即答した。 「各自負担」 新しい店は、開店前から会計が健全だった。 職員に礼を言い、荷物を車へ運ぶ途中、父が私の隣に来た。 「次の屋台には、お前の教師らしい声も必要だな。順番を呼ぶの、よく通ってた」 「大盛りを頼む人に生活指導はしないから」 「おかわりは補習?」 妹まで口を挟むので、私は車の鍵を開けながら首を振った。 「ただの追加注文です」 父が後部座席から、今度は何を聞くべきか考えるように私を見た。 「帰ったら、寝てもいいか」 「それは許可制じゃないよ」 母が笑い、父も笑った。 私は予定表を閉じた。月に一度、四人で会う。まだ残る気まずさも持っていく。 帰路につく車の中で、父の寝息が始まった。次の話し合いの相手は、もう逃げたのではなく、ただ眠っていた。

Share:

LINE

ユーザープロット

現代の地方都市で、中学校教師が疎遠な父を連れ帰ろうとする一夜の小説を書いてください。豪雨で避難所になった公民館に父が立てこもり、翌朝撤去される家族の古い屋台を守ると言い張る。教師としての説教は通じず、母と妹まで屋台の営業を始めてしまう。停電のなか、客の注文札の裏から、父が書けずにいた謝罪の下書きが次々見つかる。避難者への炊き出しを温かくユーモラスに描き、主人公も家を避けていた理由を話す。家族が月一度の屋台営業を約束する再出発で終える。