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父の謝罪は注文よりぎこちない

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父の謝罪は注文よりぎこちない
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母と妹は職員と相談し、備蓄のおにぎりに添える温かい汁物を、無料で配ることにした。調理は公民館の設備を使う。屋台は動かさず、父には看板だけを持ってきてもらう段取りだった。 「看板は煮てもだしが出ないぞ」 父が言うと、母はうなずいた。 「だから飾るの。あなたは手を洗って」 反論の使い道まで、母はきちんと仕分けした。 調理室の入口に古い看板が掛かると、湯気の向こうが少しだけ昔の店に見えた。私は家族を帰すための次の一手を考えていたが、妹に紙の束を渡された。 「注文札。普通と、ねぎ抜き。列の案内もお願い」 「迎えに来た人間に仕事を増やすな」 「人手が迎えに来たんだと思ってた」 解釈の相違が、労働契約になった。 「最後尾はこちらです!」 授業開始の声量が廊下に響いた。毛布を肩に掛けた男性が背筋を伸ばす。 「出席も取りますか」 「いえ、並んでいただければ」 「先生、私語はいい?」 妹の余計な質問に、列のあちこちで笑いが起きた。 父は看板の下から集まった人たちを眺め、ため息をついた。 「鍋が小さい。次の湯も用意しろ」 そう言いながら袖をまくる。お玉を握った途端、汁をよそう手が迷わなくなった。縁のしずくを落とし、器を渡す。長く眠っていた店主が、手首から起きてきたようだった。 私がねぎ抜きの器を間違えて受け取ると、父はすぐ引き戻した。 「札を見ろ」 「見落としました」 「先生にも追試があるんだね」 妹が言い、母まで笑った。窓を打つ雨は変わらないのに、器を待つ人の肩は少し下がっていた。 そのとき、照明が消えた。 ざわめきの中、職員が非常灯を確かめ、移動せず待つよう呼びかけた。母は火を止め、父もお玉を置いた。私は携帯の明かりで手元を照らした。 落とした注文札を拾うと、裏に文字があった。 『母さんへ。任せきりにして悪かった』 隣の札には、妹の名前。その下の『約束を』には、何本も線が引かれていた。 私の名前がある札も見えた。『進路のこと』。続きは、父の手に隠れた。 「そっちは見るな」 父の声は、さっき鍋を指図したときより小さかった。 私は札を表に返した。 普通、ねぎ抜き。その二種類の裏に、家族へ渡せなかった言葉がある。 父が今夜見張っていたのは、古い木材だけではなかったのかもしれない。

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