十六番の器を渡したところで、照明がまた消えた。 今度は私もお玉も動かなかった。停電への習熟度だけが、今夜やけに上がっている。 「足元を照らします。順にこちらへどうぞ」 職員が非常灯のある広間へ人を案内した。母は火を止め、妹が調理台から離れる。父も鍋にふたをした。 「追加はやめだ。保温してある分を配ろう」 帰宅の説得には動かなかった人が、こういう判断だけは早い。 備蓄の器を補充しに来た職員が、平たい紙の束を置いた。食品用の、組み立てて使う器だという。 私は説明図を見ながら折り、見事に片側だけ開いた箱を作った。 「汁に退路を用意するな」 父は私の失敗作を取り上げ、底を押し、縁を差し込んだ。あっという間に器になった。 「昔、客が来ないときに覚えた」 「ずいぶん練習できたんだね」 妹の感想に、父は聞こえないふりをした。 広間の端で退屈していた子どもが、父の指先をのぞき込んだ。 「ぼくもやりたい」 職員と保護者に確認し、手を洗った子どもたちに、配膳の動線から離れた明るい席で手伝ってもらった。熱い鍋には近づけず、空の器を折る係だ。 父は見本をゆっくり作った。 「ここを合わせる。力はいらん」 家で説明を頼むと『見りゃ分かる』で済ませる父が、二度も同じところを教えている。 「先生、これでいい?」 差し出された器を私が確かめるより先に、父がうなずいた。 「上等だ」 「私のときは退路だったのに」 「実際、逃げる形だったろ」 子どもたちが笑った。父が仕上がりを確認し、母が汁をよそう。私は席へ運ぶ。暗がりにも、仕事の順番ができていった。 ひと息ついた妹が、配膳済みの注文札をまとめた。番号を残して折った一枚が開き、携帯の明かりに裏側が浮かぶ。 「あのとき、お前の話を」 妹はそこまで読んで口を閉じた。 払いの癖も、妙に大きい句読点も、父の字だった。 父は子どもの器の縁を直していた。その指が、一瞬だけ止まる。 妹は札を裏返し、束の上に置いた。私も何も聞かなかった。 さっきまで紙の折り方にはあんなに迷わなかった手が、自分の言葉の置き場所だけ、まだ決められずにいた。
父の謝罪は注文よりぎこちない
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