妹は札を束ごと持ち上げ、父に差し出した。 「これ、お父さんが持ってて。人前で読むものじゃないし」 父は受け取ろうとして、手を引っ込めた。 「どうせ続きはうまく書けていない」 「だから公開していい、とはならないよ」 私が言うと、父は広間を見た。子どもたちは保護者のそばに戻り、配り終えた器を職員が回収していた。 「お前らだけなら、いい」 母が片づけの手を止めた。私たちは配膳の邪魔にならない調理室の隅へ寄った。携帯の明かりを札に向けると、父はまぶしそうに目を細めた。 「取り調べみたいに照らすな」 「証拠品が小さいんだよ」 妹は光を少し遠ざけた。 父は残っていた束から、自分で三枚を抜いた。母の呼び名、妹の名前、私の名前。宛名だけは、どれもまっすぐだった。 「店を閉める前に書いた。紙なら、最後まで聞くだろうと思って」 「紙は途中で帰省を切り上げないものね」 母の声に、父は札の角をなでた。 母宛てには、任せきりにして悪かった、とある。その先は、店のことで手が回らず、お前のほうが得意だから、と続いていた。 妹宛ては、約束を守れずすまなかった。ただ、あの日は客が来ていて。 私宛ては、進路のこと、お前の話を聞かずに悪かった。だが、教師なんて苦労ばかりで。 そこで線が重なり、紙の表面が少し毛羽立っていた。 「お父さんの文章、交差点で必ず逃げるね」 妹が言った。 「謝罪の道を直進してると思ったら、急に言い訳方面へ右折する」 父も苦く笑った。 「曲がった先が行き止まりだった」 「しかも全車両」 私は三枚を並べた。採点用の赤ペンは、今夜は家に置いてきてよかった。 「渡すつもりはあったの?」 母が尋ねると、父はうなずいた。 「書き直せば、もう少しましになると思った。そしたら、閉める日が来た」 「閉店に間に合わなかった謝罪か」 妹の声が、少し柔らかくなった。 父は束の端を押さえた。 「捨てるのも違う気がして、引き出しに入れた」 それを今夜、注文札として私たちが配っていたのだ。 表には普通とねぎ抜き。裏には、普通に謝ることができなかった父。 私は札を重ねずに置いた。 まだ誰も、もういいよとは言わなかった。それでも父は、今度は紙を隠さなかった。
父の謝罪は注文よりぎこちない
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