公開試験の朝、店先には人の肩と、角や羽が並んだ。お紺は町年寄と立会人に、水の量を示した。桶の箍、軸受け、受け枠を確かめ、宗吉が踏み板へ足を置く。 「最初は木綿の仕事着です。泥を払い、油汚れは先に手で落としました」 お澄が札を読み、お紺は布を竹籠へ収めた。穏やかな波の上に、月糸が銀の弧を描く。浮いた汚れだけが糸に寄り、受け枠へ運ばれた。 「染みついたものまで、糸が取るわけではありません」 次は染め物だった。道具と水を替え、色落ちを確かめてから、灰汁を使わず短く洗う。晴れ着が光った失敗も、お紺は隠さず説明した。 毛皮や鱗飾りのある着物では、塗り物を確かめ、水の巡りをさらに弱めた。毛皮は別に手入れし、飾りの縫い目を支える。首筋に青い鱗のある男が、洗い終えた裏地を指で確かめた。 「これなら、荷を担いでも痛くねえ」 「裏は少し湿りを残して、日陰で仕上げますね」 干し場では、手洗いの女たちが札と布を照らし合わせていた。 次の一枚を入れる前に、お紺は箱に残る月糸と、水面の光を見た。 「ここで止めます」 宗吉が足を離す。まだ銀色の残る糸を見て、見物人が首を傾げた。 「もう少し使えるんじゃないか」 「尽きてからでは遅いんです。次の分は手洗いにするか、納める日をご相談します」 汚れを包んだ布と、洗い水を分けた蓋付きの桶まで示すと、町年寄はうなずいた。 「水の量と汲む刻、汚水の始末、毎朝の点検を守れ。帳面も確かめる。その条件で、商いを認める」 歓声の中、川吉が新しい看板を持ってきた。 「桶の製作と保守は、俺に任せろ。直す銭も、帳面に入れとけ」 「もちろん。川吉さんの技がなければ、この桶は店で働けません」 お紺が答えると、川吉は看板を裏返した。 裏には桶を作った者として、川吉と宗吉の名が並んでいた。宗吉が頼んで彫らせたのだ。 「まったく、断りづらくしやがって」 川吉は笑って、看板を掲げるお紺へ手を貸した。 遠くでは、出島へ向かう荷の列が動いている。新しい看板には、人も魔物も、と墨で書かれていた。お紺は戸を大きく開けた。 「さあ、まずは着物のお話を聞かせてください」
魔物の着物を洗うには月が要る
小説ID: cmw3s64wx000101rouiupy76j

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寛永十八年、オランダ商館の出島移転に揺れる長崎を舞台にした歴史幻想小説を書いて。人と魔物が暮らす裏町で、小さな洗い張り屋の店主・お紺は評判を上げるため、転生仲間の元機械技師と元洗剤研究員を集める。前世の知識で、毛皮も鱗も傷めない足踏み洗濯桶を作るが、町年寄の営業差止めと、人用の洗剤で魔物の着物が光る事故が障害となる。月光を糸に巻いて汚れだけを絡め取る仕掛けを幻想的に描き、公開試験で便利さと安全性を証明する。反対していた河童の桶職人が仲間に加わる結末にする。
