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魔物の着物を洗うには月が要る

小説ID: cmw3s64wx000101rouiupy76j

魔物の着物を洗うには月が要る
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三日後、お紺の店の土間に、小さな試し桶が据えられた。 前の世では機械技師だった宗吉も、この町で手に入るものには頭をひねった。 「鉄の部品を欲しがっても、始まらねえ。あるもので作るさ」 木の軸に木製の歯車を組み、踏み板を押すと、桶の底の羽根がゆっくり動く。水面には、椀でかき混ぜるより穏やかな波が立った。 「これなら、布を揉まずに済むね」 お紺が古い木綿の端切れを入れる。宗吉が得意げに二度踏んだところで、布端が羽根に吸い寄せられた。 次の瞬間、軸に巻きつく。 「止めて!」 宗吉の足が浮いた。お紺は水が静まるのを待ち、張りつめた布をそっと外した。端には小さな裂け目ができていた。 預かり物なら、笑って済ませられない。 「水を動かすものと、着物の居場所は分けよう」 お澄の提案で、三人は細く割った竹を編み、桶の中へ収める籠を作った。布が引っかからぬよう、お紺が指先でささくれを探し、宗吉が削る。 お澄はその傍らで、木綿、絹、毛皮付きの衣類を帳面に分けた。水の温かさ、浸す長さ、揺らし方。わからぬ欄は埋めずに残す。 「前の世の知識でも、知らない衣類は知らないものね」 そこへ、桶を納めた河童の川吉が顔を出した。頭の皿を湿らせた手拭いを直し、踏み板を見るなり眉を寄せる。 「水を溜める桶と、何度も揺すぶる桶は別物だ。底も箍も、普通の備えじゃ持たねえぞ」 宗吉の口が、とがりかけた。 「力はちゃんと小さく――」 「一度は小さくても、毎日千遍ならどうなる。桶屋の仕事は、丸く組んで終わりじゃねえ」 お紺は裂けた端切れを台に置いた。宗吉はそれを見て、言い返す代わりに設計帳を開く。底の支え、箍の緩み。川吉の指摘を、墨で残した。 その夜、お紺は月明かりを細い糸へ巻き取った。水に浮かべると、淡い銀の輪に細かな汚れが寄ってくる。 「水から浮いた分だけ、拾えるみたい」 けれど、染みついた脂は残り、何度か使うと糸の光も消えた。お澄は使えた回数を書き、宗吉は籠に触れぬ糸の掛け方を描く。 「桶だけよくても、店にはならないね」 お紺が言うと、二人はうなずいた。 机の上には裂けた布と、まだ余白の多い帳面が並んでいた。それでも昨日にはなかった、次に確かめることが、三人には見えていた。

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