chapalette Logo

魔物の着物を洗うには月が要る

小説ID: cmw3s64wx000101rouiupy76j

魔物の着物を洗うには月が要る
8 / 10

八日目の朝、久しぶりに青空がのぞいた。町年寄の使いは、立会人となる町の男を連れて、お紺の店へ来た。 「今日は桶の点検に限って、動かしてよい。点検役には川吉を立てる」 戸口にいた川吉が、濡れた手拭いを頭の皿へ置き直した。 「頼まれたからには、悪いところも言うぞ」 「そのために、来てもらったんです」 お紺は試し布と、量っておいた水を示した。月糸は箱に残し、まず仕掛けだけを確かめる。 宗吉が踏み板を押すと、羽根は軽く回った。ところが、水を張ったまま時を置き、再び踏むと、同じ足の力では歯車が進まない。 「さっきより重いな」 力を込めかけた足を、川吉が声で止めた。 「踏むな。木が水を吸って、膨らんだんだ」 水を抜き、軸を外す。軸受けの内側には、擦れた跡が細くついていた。 「乾いた木にぴったり合わせりゃ、濡れたときに軸を噛む。桶の底だって、いつも同じところにいるわけじゃねえ」 宗吉は図と擦れ跡を見比べた。前の世では、計算して隙間を決められた。だが、その計算へ入れるべき木の癖を、自分は知らなかった。 「寸法が合えばいいと思ってた。膨らむ分を、どう見ればいい」 川吉は端材を二つ取り、一方を水へ沈めた。 「まず、使う木で確かめろ。削りゃ済むとも限らねえ。空けすぎれば、今度は軸が暴れる」 二人は濡れた木と乾いた木を比べ、軸受けを削り直した。傷んだ部分だけ取り替えられるよう、受けの木片も外せる形にする。歯車を囲う覆いには、留め木を抜けば開く点検口を設けた。 川吉は桶の箍を順に押し、底の継ぎ目まで確かめた。 「今日、水が漏れなきゃ終わりじゃねえ。使い続けりゃ締まりも変わる。箍が動く前に、毎朝見ろ」 お澄が帳面へ書き、お紺は点検口を自分の手で開けた。見づらいところは、立会人にも覗いてもらう。 昼過ぎ、羽根は再び穏やかに回った。宗吉が笑いかけると、川吉はまだ厳しい顔をしていた。 「点検の責任は持つ。だが、お前らの仲間になるとは言ってねえぞ」 「ええ。直した桶も、また見てください」 お紺が答えると、川吉は軸受けを指で確かめ、もう一度踏めと宗吉に顎をしゃくった。

Share:

LINE