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魔物の着物を洗うには月が要る

小説ID: cmw3s64wx000101rouiupy76j

魔物の着物を洗うには月が要る
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雨は七日続いた。軒から落ちる雫を眺め、お紺は月糸の箱を開けた。試験に残しておいた銀の輪は、底が見えるほどしかない。夜ごと糸巻きを窓辺へ置いても、厚い雲から月明かりはこぼれなかった。 「糸を長持ちさせる仕掛けだけじゃ、追いつかねえな」 宗吉は描きかけの図を伏せた。異国から来る細かな金網を受けに使う案だったが、値も届く日もわからない。 「手に入るかもわからねえ品を、店の頼みにするわけにはいかねえ」 代わりに取り出したのは、近所の指物師から分けてもらった木片だった。月糸を掛ける受け枠を外せる形にし、汚れた枠を洗っている間に、別の枠へ替えられるようにする。 「これなら、傷んだところだけ町の職人に直してもらえる」 点検に来た川吉は、差し込みを濡らしてから押し戻した。途中で枠がつかえ、宗吉の顔が曇る。 「木は水を飲む。乾いたときだけ合ってりゃいいもんじゃねえぞ」 宗吉はうなずき、削り直す場所へ墨をつけた。 お澄は新しい試しに月糸を使わず、これまでの帳面を繰った。木綿の泥は先に払う。油汚れは、染めや加工を確かめてから下洗いする。毛皮や艶出しのある品には、その手順を勝手に当てはめない。 「月糸へ渡す汚れを減らそう。でも、糸を惜しんで布を傷めたら逆戻りだよ」 お紺は残りの糸を量り、試験用を別箱へ移した。残った長さを帳面と比べると、扱いのわかった軽い汚れの木綿でさえ、何枚も引き受けられる量ではなかった。 「営業を許されても、注文を全部は受けられないね」 宗吉が雨戸の隙間を見た。 「晴れる見込みで、預かっとくのも駄目か」 「その見込みが外れたら、客の着る日が困るもの」 お紺は、営業再開に備えた店先の札を書き直した。月糸の残りによって、桶を使えない日がある。預かる前に納める日を相談する。昔ながらの手仕事で扱える品も、無理に桶へ回さない。 「ずいぶん、便利じゃなさそうな札だな」 宗吉は苦笑したが、自分の図にも、枠を替える前に止めて確かめる手順を書き加えた。 お澄が札を読み返し、墨の乾いた端を押さえる。 「それでも、待てない人が先にわかる」 お紺は札をしまい、願書の控えに受けられる量を書き足した。雨はやまない。それでも、晴れたふりをして客を待たせる店にはしないと、三人の考えはそろっていた。

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