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魔物の着物を洗うには月が要る

小説ID: cmw3s64wx000101rouiupy76j

魔物の着物を洗うには月が要る
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桶の点検を終え、試験の支度が整った夕方、手洗いを請け負う女たちが店へ来た。 「それが流行れば、私らの仕事はなくなるんじゃないかい」 先頭の女の手は赤く荒れていた。商館移転で宿の注文が減り、洗い物の口まで失うのかと、声が尖る。 お紺は言い返さず、土間に筵を敷いた。荷運びの口を失った男や、得意先が減った針仕事の女も呼び、帳面を広げる。 「桶に任せられるのは、仕事の一部だけです」 仕分け、下処理、干し、仕上げ。それぞれの欄に、必要な手間と、支払う手間賃を書いてあった。 「染めや塗り物を見て、洗う前に分ける。その目利きも必要なんです」 「細かい仕事を押しつけて、銭は安く済ます気じゃないだろうね」 お紺は筆を置いた。 「そこを、今日決めたい。手のかかる品は、枚数だけで数えません」 女たちは帳面を寄せ合った。染み抜きと、泥を払う仕事は別にする。干し場の見張りも手間に入れる。注文がなければ仕事を約束できないことも、お紺は隠さなかった。 「しくじったら、弁償は誰がする」 「決めた手順を守って起きた傷みは、店が引き受けます。迷う品は止めて、お澄か私を呼んでください」 宗吉が踏み板から足を離した。 「早く洗えるからって、急げとせかす桶にはしねえよ」 水を運ぶ男も、混み合う刻を避ける約束と駄賃を確かめ、帳面に名を書いた。 「重い洗いを助けてもらうなら、腰にはありがたい」 先頭の女が仕分けの欄を指し、ほかの女たちもうなずいた。 翌日、お紺は決め事を町年寄へ届けた。桶の改修と、失敗の始末を記した帳面も添える。 許しは、商いではなく公開試験に限られた。町の立会人を置き、井戸水の量と汲む刻を守る。汚れた水の始末を示し、桶や布に異変があれば直ちに止めること。 お紺は一つずつ読み返し、頭を下げた。 店へ戻ると、女たちが試験の仕分け札を作っていた。 「この欄、干す場所も書いとこう。日陰が要る品を間違えちゃ困る」 お紺は筆を渡した。桶の周りに増えた手は、もう仕掛けを遠巻きに眺めてはいなかった。

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