chapalette Logo

彗星よりも神童扱いが恐ろしい

小説ID: cmw53skf1000201plrgzm1wc9

3 / 10

朝に戻っても、借りた道具は部室に残っていた。仁は風呂敷をほどき、真鍮の筒を撫でた。あの街との約束まで夢になったわけではないらしい。 本当は夕空を見たい。だが午後五時には、また味噌汁の前へ戻される。仁は理科教師に頼み、昼休みに学校の庭で小さな観測会を開くことにした。 「昼間に星だって? 寝ぼけたのか」 集まった級友は半信半疑だった。仁も、異世界の望遠鏡なら何か特別なものが見えると期待したが、覗けば枝は枝、雲は雲だった。 教師に向きを確かめてもらい、星図を頼りに筒を動かす。青白い空の中に、やがて小さな白い光が浮かんだ。 「金星だ。昼でも、場所がわかれば見つけられる」 教師の言葉に、級友が我先にと並んだ。 「本当にあった!」 「おい、押すな。逃げるだろう」 逃げるのは星ではなく筒の向きだった。仁は笑いながら台を押さえた。奇妙な街の品でも、地上ではきちんと光を集める道具として働く。それが妙に嬉しかった。 星図と照らし、校舎の角からどちらへ見えたか、何時に覗いたかを書き留める。級友たちは、宝探しの地図を作るように夢中になった。 「これを町の人にも見せれば、毒気なんて怖くないとわかりますね」 仁が言うと、教師は記録を持つ手を止めた。 「今、確かめたのは何だね」 「金星の位置です」 「では、毒気がないことは?」 仁は望遠鏡を見た。明るい星が見えた。それだけだった。 「彗星の尾にどんな物質があるかは、光を分けて調べる。さらに、その物質が地上で危険になるほど届くかどうかは、別に考えねばならん。この筒だけで全部はわからない」 級友の歓声が、少し遠く聞こえた。珍しい道具を持っていれば、正しい説明まで手に入ると思っていた。 仁は観測帳の末尾に、今日わかったことを書いた。その下に、まだわからないことを書く。こちらのほうが長くなった。 「まず、皆が何を根拠に怖がっているのか、聞いてみます」 新聞の記事なのか、誰かの伝聞なのか。怖がるなと言う前に、それを分けたい。 教師は頷いた。 午後五時まで、まだ間がある。仁は観測帳を抱え、新聞を持ってきた級友を追いかけた。今度は空ではなく、噂の来た道を探すのだ。

Share:

LINE