新聞販売店の軒下には、刷りたての紙と、糊の匂いがこもっていた。 「彗星の記事を、前の分から見せてもらえませんか」 仁が頼むと、店主は売れ残りの束を引き出した。 「毒と大きく出た日は、朝からよく売れたよ」 古い記事には、尾の光を調べて成分が見つかったとある。新しい紙面では、その物質の名より、恐ろしい見出しのほうが目を引いた。 仁は掲載日を控え、借りた新聞を抱えて町の読書会へ向かった。 会場の畳に紙面を並べる。尾は極めて薄く、成分があることと人を害することは別だという説明もあった。だが、それは小さな活字で、段の奥に隠れていた。 「空気が毒になると聞いたぞ」 向かいの老人が言う。 「それは、どの記事ですか」 「床屋で聞いた。向こうは魚屋からだそうだ」 皆で紙面を探したが、その通りの一文は見つからない。仁は余白に、記事と伝聞を分けて書いた。人の口を渡るうち、尾にある成分が、町へ降る毒に変わっていたのだ。 帰り道の雑貨屋では、客が米と炭を普段の倍も注文していた。 「売らぬと、何か隠していると言われてね」 店主の困り顔に、仁も返す言葉を探した。母だって不安なら米櫃を満たしたいだろう。 「何が書いてあって、何が書いてないか、紙にして持ってきます」 部室へ戻り、記事の日付を古い順に並べた。成分を調べた事実、危険の程度についての説明、口伝えで足された話。それぞれを混ぜずに写す。 星図を重しに置いたとき、白かった余白に細い文字が浮かんだ。 『貸出二日目。返却は三日目の鐘まで』 仁は筆を止めた。借りたときは、そこに初日を示す星の印しかなかった。 地上の暦は借りた日と同じだ。なのに、あの街の貸出帳は昨日を数え、明日の期限を近づけている。 店主の忠告が、ようやく重さを持った。 同じ朝が来るからといって、約束まで待ってはくれない。
彗星よりも神童扱いが恐ろしい
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