風呂敷を背負い、仁は星時計の奥へ踏み込んだ。望遠鏡の重さが肩に食い込む。返す道筋は、朝に見た断片で覚えていた。 四時十分に渡し舟へ乗り、対岸の橋を渡れば店へ着く。地上の郵便配達も煙草入れも、見た通りになったのだ。 渡し場の時計が十分を指した。舟は来ない。 「もう少し待てば」 五分、さらに五分。白い舟が現れるはずの川を、紙で作った魚だけが流れていった。 仁は川沿いを走った。橋なら歩いて渡れる。ところが入口には縄が張られ、露店がひしめいていた。 「通してください、返却の期限が」 「今日は市だよ。渡る道じゃない」 荷車を押す男が答えた。 「でも、通れるはずなんです」 「何を見てそう思ったね」 仁は口を閉じた。頭の中の橋には誰もいなかった。目の前には客も店もいる。正しいのは、どちらだ。 男の影を踏まぬよう足を引き、仁は頭を下げた。 「道具を借りた店へは、どう行けばいいですか」 男は荷車を止めた。 「祭りの日は影の向きで道の役目が変わる。橋の影が岸に沿う間は、市になるんだ。舟も今は荷運びだよ」 仁は足元を見た。橋の影は川と並んでいる。橋そのものばかり見て、影など気に留めなかった。 「川を横切る影を探しな。今なら染物屋の裏の小橋だ」 礼の影を畳み、教えられた路地へ入る。小橋の先に貸し手の店が見えたとき、ようやく息が戻った。 星図を渡すと、店主が貸出帳の印を一つ消した。 「望遠鏡は北の出張所、鏡は広場の出張所へ。今日は祭りで、ここでは受け取れない」 一緒に借りたから、一緒に返せると思い込んでいた。店の都合も、街の決まりも、何一つ尋ねていなかった。 「何時まで開いていますか。途中の道も教えてください」 今度は知ったつもりで頷かず、目印を紙に控えた。風呂敷は少し軽い。けれど残る二つは、待っているだけでは返せない。 仁は通りへ出た。未来ではなく、今ここにいる人へ道を尋ねるために。
彗星よりも神童扱いが恐ろしい
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